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2016年2月27日 (土)

小説「楫取素彦物語」第98回

 

幻馬が不安の色を顔に出すことは滅多にないことであった。幻馬の不安は現実となった。三人が話している頃、馬は京都河原町の近江屋の二階で同志中岡慎太郎と話していたが、三人の刺客に襲われ殺された。慶応三年十一月十五日の夜であった。三二歳の若さだった。

 

慶応三年はかくして終わり明ければ慶応四年であった。楫取は奥番頭に就き殿中の諸事一切を統括していた。

慶応四年は、西暦では一八六八年。徳川の支配が終わり、日本が近代国家に向けて大きく踏み出した年である。

この年の出来事は、日本が近代国家を産むための陣痛を味わう年でもあった。

一月、幕府は、薩長を中核とする倒幕軍に破れ、将軍慶喜は、二月、恭順を決め上野寛永寺に蟄居した。

三月、江戸城無血開城交渉成功(開城は四月十一日)、新政府は五カ条の誓文を発布して、新政の基本政策を示し、九月八日、明治と改元した。

 

毛利敬親公の死。法話の活動

 

 

明治三年、楫取は奥番頭を兼ねて山口藩の権大参事に就任した。

明治四年三月二八日、長年全幅の信頼を得て、懐刀として仕えた毛利敬親公が世を去った。四三歳だった。敬親公の存在は楫取にとって心の柱であったから、その死によって楫取の心には大きな空洞が生じた。楫取も四三歳であった。

激しい時代を生きた楫取にとってこの年は人生の大きな転換点であった。

ある時、楫取は妻寿に切り出した。

「よく生き延びられた。まわりの多くの人が命を落とし、世を去ったことを思うと感無量だな。お前にも随分苦労をかけた」

「本当にご苦労様でした。私の苦労などあなた様に比べればとるに足りません。敬親公様のご逝去は誠に残念でございます。あなた様の心中を御察ししますと寿はたまらない思いでございます」

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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