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2016年2月 7日 (日)

小説「楫取素彦物語」第92回

この慶応三年という年は日本史が一大転換を遂げた年である。十月三日、土佐藩は幕府に対し大政奉還を建白、将軍慶喜はこれをいれて十月十四日、朝廷に大政奉還を上表し、翌日、朝廷はこれを受理した。ここに、二百六十余年続いた徳川の江戸幕府は倒壊した。

楫取は深い感慨に浸っていた。今、大きな山の頂に立っている。見下ろせばここに至る道で、松陰、久坂、晋作が倒れた。自分が生きていることが不思議に思えた。束の間の平穏を味わっていた時、意外な訪問客があった。

「お久しぶりでございます」

にっこり笑う美しい顔はあのお綱であった。

「ご出世なされ、ここまで近づくのが大変でございました」

「なんの、そんなことはない。して、今日は何のご用でまいったか。幻馬殿はお元気か」

「はい、つきましては積もる話もある、今後のことも語りたい。幻馬様はこう申されてお誘いするようもうしつかってまいりました

「左様か。長崎や太宰府が懐かしい。私もお会いしたいとお伝え願いたい」

「かしこまりました。幻馬様もさぞでございましょう」

お綱は太宰府の時のように白い歯を見せて笑うと、丁寧に手をついて頭を下げた。

日を改めて約束の場所に案内されると、幻馬と共に見知らぬ男が待っていた。

「万次郎でございます」

楫取は、まさかという思いで潮(しお)焼けをした逞しい体格の男を見つめた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

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