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2016年2月13日 (土)

小説「楫取素彦物語」第94回

慶喜を動かしたのは我が藩の前藩主山内容堂様だ。容堂様の熱い思いも馬と同様、万次郎の影響と私は信じてる。これも、土佐の沖を唸りを上げて流れる黒潮の奇跡、はこう信じるのだ。実に愉快」

幻馬はここでまた話すのを止め、目を閉じて何か回想している風であったがやがて言った。

「ここに松陰殿おられたらさぞ面白い話になったであろうに」

これに応えるように楫取が言った。

ほんとうに。松陰は、海の向こうのアメリカに限りない想像を巡らせて黒船に乗り込んだ。あれは安政元年三月の出来事であったが、その前年に松陰は萩に立ち寄りました。長崎の帰りで江戸へ向かう途中であった。その時、長崎で幻馬殿に会ったとしきりに申されていた。松陰のあの時の輝く表情が目に浮かびます。そして、黒船乗り込む決意を私に語ったのです」

この時、楫取の話を制するように幻馬が言った。

「あの時のことが思い出されます。は攘夷などは絵空事だ、目を開け。お前から出る不思議な雰囲気に注目するが素直すぎる。自爆せぬように注意せよと申した。あの時の松陰殿の姿が昨日のように思い出される」

幻馬は空間の一点を睨むようにして言った。この時、楫取は万次郎に視線を戻し尋ねた。

「万次郎殿に聞きたい。松陰の行動は無駄だったのだろうか。松陰の失敗は無意味だったのでしょうか」

万次郎はしばらく考えていたが、意外なことを話し始めた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

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