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2016年1月16日 (土)

小説「楫取素彦物語」第86回

「やあ、突然お呼びだてしてすまない。木戸殿との連絡、大役御苦労でした。まずは一献」

幻馬が伊之助に盃をすすめた。

「私の役目は身に余る大役。長州は、何せ、禁門の変以来薩摩を怨んでおるにちがいないからな

こう話す龍馬の表情は言葉とは裏腹に何も苦にしていない様子である。

「長州は滅亡のに立っている。昨日の敵は明日の救いの神。馬よ、おはんには似合いの役

「幻馬殿は簡単に申すが、この酒も、飲み納めになるかも知れぬことだ。は、は、は」

馬は豪快に笑った。

「神に祈る心地ですぞ。その後も木戸には何かと情報を伝えて準備を進めています。幕府の密偵も神経をとがらせている。不心得な刺客にも十分気をつけてくだされ」

 伊之助は酔えぬ表情で言った。

、いざという時はこういう用心棒もる」

 馬は懐からずしりと重そうな短銃を取り出して見せた。

「幻馬殿からもらったイギリス製の業物。これまでも何度か助けられた」

「それに頼るようでは今度の交渉は成功しないぞ。命を捨てて誠意を伝えることだ。おはんの身辺はわしらが守るから心配しなくともよい

は夕べ一晩考えた。松陰が伊之助殿によい言葉を残したそうな。これも幻馬殿から聞いたのが、至誠にして動かざるは未だ有らざるなりか。孟子の言葉。この言葉を抱いて黒船に乗り込むとは純粋にして大胆、松陰の大きさが、今、大事を前にして分かったの。馬関に向うは、あの時の松陰と同じ。長州を黒船と考え、この誠意で体当りしようと思う」

馬殿、よくぞ言ってくれた。私は松陰に代わって礼を申します

伊之助は思わず、馬の手を固く握りしめた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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