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2016年1月 3日 (日)

小説「楫取素彦物語」第82回

「土佐人で、これからの日本の方向に大きな役割を果す男だ。万次郎によって目を開かされたと申してる。この男、幕府だ長州だと言っている時代ではない、国民が力を合わせられる国をつくらねばならぬという雄大な構想をもっている。思想と行動力を合わせ持った男。松陰殿がそうだった。わしは、松陰殿馬が新しい世をつくると見ていたが、松陰殿がこの世を去ってしまった。あとは馬のみ。その馬が今、この太宰府におる。おぬしがぜひ会っておくべき男だ。わしが仲介いたす」

 伊之助は幻馬の真剣な視線を受け止めながら言った。

貴公の提案、ありがたく心に留めただが、しばしお待ちいただきたい。私は主命を帯びてこの地に来ておるがまだ果たしておらぬ。先ず主命にかからねばならぬ身。その結果によって今後の動きを考えねばならぬしばらく待ってもらえまいか」

「いかにもその通りです。三条卿は薩長が手を握ることを望んでる。そこで馬なのだが、わしも先走ることは慎もう」

 伊之助は三条実美に拝謁し主君の書状を渡した。

「麿らが京を追われて以来、禁門の戦い、幕府の長州征めなど、長州には大変苦労をかけてる。朝廷とて、頼りになるのは長州のみと思っているのだ

ありがたきお言葉、誠に恐れ入ります。そのお言葉で長州は勇気百倍でございます」

「麿も指をくわえて時を過ごしているのではないぞ。ここにいろいろな情報が集まり、それを見て心を砕いておる。吉田松陰の黒船乗り込みは長州の心意気を天下に示した。四国(よんごく)と戦って破れはしたが、あの出来事は異国の者共が長州に新たな目を向ける契機となった。イギリスのパークスの考えが薩摩にも伝わり、薩摩に微妙な変化が生じているらしい。麿はそれを願っている。敬親公には書面で伝えるが、そちも麿の気持を伝えていただきたい

 自分を京から追放した主力の薩摩を三条卿が許そうとしていることに伊之助は時代の大きな変化を感じた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

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