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2016年1月10日 (日)

小説「楫取素彦物語」第84回

「ところで、相談がある。幻馬からある程度聞いておられようが」

馬は声を落として、あたりを窺った。

「薩摩と長州が争っていては、天下のことは前に進まぬ。私は薩摩で西郷らに会い大方の空気をつかんでこの太宰府に来た。今こそ、薩長が手を結ぶ時私は命をかけてもその役割を果したいと考えるがおぬしはどう思うか」

 ローソクの揺らぐ中で馬の横顔には並々ならぬ決意が現れている。

「全く同感で。我らは長州が生き残る道は日本が生き残る道と考えています。そのためには幕府を倒して新しい日本を作らねばならぬ。このことは、幕府と戦ったことで骨身で受け止めました。破れたが藩内は高杉の挙兵によって戦う姿勢で一丸となっている。次こそ黒白をつけるとき。薩摩我らと目的を一つに出来るなら手を握ることに異存はない」

「それを聞いて安心いたした。私は、馬関へ渡り木戸に会いたい。ついては貴公に一つ骨を折ってもらえまいか」

「出来ることなら何でもいたす。腹蔵なく言ってもらいたい」

 伊之助は身震いするような興味を身内に感じていた。

 龍馬が目指すことは二六〇年余りに及んだ徳川幕府の打倒である。うまくいけば、日本再生に道を開くことになる。その歴史的大事業に関わることなのだ。

「幻馬殿の話では、馬関に木戸孝允が来ているらしい。この話は木戸に話をするのが一番だが、今、馬関は大変物騒でよそ者が入れぬという。ついてはおぬしから木戸殿に話を通じてもらえまいか」

 馬の声には熱がこもっている。伊之助と同じように歴史を作る大事業に臨むなみなみならぬ決意がにじんでいた。

 

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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