« 人生意気に感ず「ふるさと塾の憲法。新旧憲法の天皇。降伏文書。天皇の責任」 | トップページ | 人生意気に感ず「ふるさと塾の続きーソ連との分割支配。9条の判例。警察マラソンに参加」 »

2015年11月 3日 (火)

小説「楫取素彦物語」第59回

「お若けぇの、難しい理屈はわからねえが、お前さんのような者を切るたぁ、幕府も長ぇことはあるめえ。娑婆では黒船が来たと国中ひっくり返る騒ぎだった。それは、地獄の丁目のこの獄舎にも伝わってきた。そこへ小せえ船で近づいて乗り込むたあ、てえした度胸とおれは恐れ入ったわけだ。あの時は、おれの腐ったような血も久しぶりに燃えましたぜ」

「吉五郎殿、嬉しい言葉です」

 松陰は思わず吉五郎の手を握りしめた。

「あなたは私の行動を心で受け止める人だ。今の声を聞いて私は自分の死が無駄ではないと思えてきました」

「何の、無駄のはずがあろうか。おれのような男さえ、何かその気にさせているのだ。お前さんの死をまともな人が知って見ねえ。皆が心の火を燃え上がらせるに違いはありませんぜ

吉五郎は話すのを止めて松陰の目を見た。

松陰さんと言いますか。これからは名前を言わしておくんなせえ。松陰さんよ、見事に死んでくだせえ。それが幕府に対する面当ですぞ。役不足だがこの吉五郎、松陰さんの死を見届けて、運よく娑婆に出ることがあったら多くの人に知らせますぜ。私は喜んで生き証人になりますよ」

「済まぬ。ありがとう吉五郎殿」

 松陰は握った吉五郎の手に涙を落とした。

「ところで吉五郎殿、あなたに折り入って頼みたいことがある

 松陰は声を落として言った。

「何でございます」

「私はこれから遺書を書きます。それは同志に対し、また広く天下に対し私の思いを残したいからだ。二通書くつもりです。一通は獄吏の手に渡るでしょう。それがどうなるかは分からぬことです。そこでもう一通を吉五郎殿が預かって欲しいのです。あなたが外に出た時に、長州の確かな者に渡して欲しいのです」

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

|

« 人生意気に感ず「ふるさと塾の憲法。新旧憲法の天皇。降伏文書。天皇の責任」 | トップページ | 人生意気に感ず「ふるさと塾の続きーソ連との分割支配。9条の判例。警察マラソンに参加」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小説「楫取素彦物語」第59回:

« 人生意気に感ず「ふるさと塾の憲法。新旧憲法の天皇。降伏文書。天皇の責任」 | トップページ | 人生意気に感ず「ふるさと塾の続きーソ連との分割支配。9条の判例。警察マラソンに参加」 »