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2015年11月22日 (日)

小説「楫取素彦物語」第65回

「分かりました」

 伊之助は玄瑞の手を固く握った。

 藩主敬親を交えた会議は激しい論争の場となった。

「孝明天皇が攘夷を明らかにされた以上これを支持することが長州のとるべき道だ」

「幕府に正面から逆らっては長州が危うくなる」

「そんな弱腰でどうする。いざとなれば支藩とも一丸となって戦うのが関ケ原以来の我が藩の魂ではないか」

「諸外国と結んだ条約を破棄するなど現実無視だ」

 両派に分かれ、このような激論が闘わされたが、藩主の採決となり、破約攘夷と決まった。幕府が結んだ条約を破棄し、外国を打つというのだから幕府に真向から逆らうことになる。幕府の制裁を受けることは明らかであった。

 伊之助は藩主に呼ばれて密命を受けた。

「秘かに京を出て、長府の毛利と岩国の吉川へ行き、破約攘夷の方針を伝えよ。将来万一幕府と戦う時は一致協力することを説得せよ」

 敬親公の顔面は蒼白となりひきつっていた。

 伊之助は藩主の顔を見て決意を固めた。

これは大変なことだ。藩主は命をかけておられる。自分も命をかけよう。藩の命運がかかっているのだ

伊之助はこう思った。そして、こんな大役を自分に託した藩主の心に感謝した。伊之助は松陰から得た「至誠」の書を思い出した。今は、妻寿に預けてあるが、あの鮮やかな筆跡が伊之助よ誠を尽くせと励ましている。そういう思いで伊之助は岩国に向かった。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

 

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