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2015年11月29日 (日)

小説「楫取素彦物語」第68回

 孝明天皇は、よくぞやったと感激して藩主毛利敬親に「攘夷の褒勅」を下賜した。世界の動きから見れば正に愚挙であり暴挙であった。しかし、愚挙であっても時代が展開する契機となる。長州の暴挙はその歴史的好例であった。

 敬親公は伊之助を勅使出迎え並びに接待諸事役に任じた。朝廷との密接な連絡が予想されたからである。

「朝廷との連絡は我が藩にとって最も重要だ。粗相のないようしっかり頼むぞ」

 藩主は自ら伊之助に告げた。

「はい、藩の存亡がかかる任務であること伊之助、肝に銘じて務めて参ります」

 孝明天皇は大和に攘夷祈願で行幸することを決定。敬親公に随行せよと命じた。伊之助は早打で萩に動きその旨を上申。しかし、この大和行幸は突然中止された。朝廷内の大きな変化を予感し伊之助は恐れた。

 予感は的中する。八月十八日、朝廷内で政変が起きた。公武合体派により攘夷派は朝廷から追放された。公武合体派は薩摩と会津を中心とする力である。唯一天皇を支える力と自負してきた長州としては面目丸つぶれであった。文久三年は過ぎ元治元年を迎えた。

 元治元年の正月早々、伊之助は長崎聞き役を拝命して長崎へ出張した。ほぼ二ヶ月間滞在した。外国の情報を調べることが目的であった。

 ある夜、御高祖頭巾の女が人目を盗むように伊之助の宿を訪ねた。頭巾をとった顔が灯に浮き出て美しい。

「お綱と申します」

 女は両手を丁寧について挨拶した。

 

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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