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2015年11月 1日 (日)

小説「楫取素彦物語」第58回

 

そう思うと母の姿が浮かんだ。背を流した手の温もりが甦る。

必ずこの家に帰るんだよ

あの声が耳の底で聞こえた。古里の萩の山河が迫る。

エイッ

 松陰は心に叫んで、湧き起こる想念を切って獄中に正座した。

に何か出来ることは」

名主の沼崎吉五郎端座して言った

「後で頼むことがございます」

 松陰は吉五郎の目を正視して言った。

 今回の下獄で初めて視線を合わせた時、松陰は吉五郎の目に自分を認めるかがあるを感じ取っていた。吉五郎は下田事件の松陰のこと、その後の獄中の出来事を伝え聞いていた。

吉五郎はある時、同囚の者に言った。

黒船に正面から挑むとは大胆不敵、獄中を教室に変えたというがただ者ではあるまいあれから萩へ送られ、厳罰は免れたと聞いたが、安政の大獄が吹き荒れる中再び檻に入れられ江戸に運ばれてきた

何かやってやらねばならねえ

吉五郎は心中、期するものがあった。

その松陰が目の前にいる。

 長い沈黙の時が荒れて吉五郎が声をかけた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

  

 

 

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