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2015年8月22日 (土)

小説「楫取素彦物語」第33回

松陰たちは藤丸駕籠に入れられて萩へ護送され、野山獄に入ることになった。

 松陰が野山獄に入ったのは安政元年九月二三日であった。松陰はこの年二五歳になっていた。野山獄は士分、つまり武士の身分をもった人々を入れる獄であった。すでに十一人の囚人がいた。この人たちの多くは親族の借牢願により入牢していた。つまり、家族や親戚の者が困った末に藩へ願い出て獄に入れてもらった人々である。

 松陰の大きな支えは、ここは古里であり、家族や親族が近くにいることであった。伊之助が松陰の妹と結婚したのは前年のことである。松陰が黒船に乗りこんで失敗し江戸の獄につながれたことは電撃のように長州に伝わっていた。一族の人々は、重大な国禁の違反ゆえ打ち首も避けられないとおそれたが外に軽い処罰でしかも萩の野山獄入となった。家族や親戚は密かに喜んだ。母の滝は息子の無事を祈って神仏に手を合わせていただけに涙を流して喜んだ。喜びを隠さずはしゃごうとする文は長兄梅太郎にきつくたしなめられたが心のうちが目に現れるのを抑えることが出来ない。伊之助が妻寿と面会に来た。

「先ずはご無事で何よりです。黒船の話を聞いた時、遂にやったと思いましたが、妻と共に幕府の厳罰を恐れていました」

「迷惑をかけることになって相済まぬ。夜の海で鋼鉄の砦がうなりを上げていた。身一つとなって飛びつき船上に一歩を印した時は、アメリカの大地を踏んだが如き感動を覚えました」

松陰は言葉を止め、あの夜のことを思い浮かべているようであった。伊之助は固唾を呑んで松陰の口元を見詰めた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

 

 

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