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2015年8月15日 (土)

小説「楫取素彦物語」第31回

「そうだ。そうだ」

声が起き、うなく顔も見られた。

「お侍さん、見ての通りだ。お見かけした所あんたは俺たちと違って真面目な人間らしい。俺は久しぶりに人間の声を聞いた気がしやした。どうか続きを聞かせておくんなさい」

 五郎八は神妙な顔で言うのだった。

松陰は頷いて続けた。

「私は思ったのだ。戦って勝てないなら今は忍耐して、相手を観察してこれをよく学び、その上に出ることだ。

それには百聞は一見にしかず。相手の船に乗り込んでアメリカに連れていってくれと頼んだ。ところが我が望みは容れられなかった。幕府に渡されれば首を切られる。私はまだ死ぬわけにはいかない。

そこで命がけで頼んだが駄目であった

誰かが口を挟んだ。

「お侍、そこがお前さんの甘いところだ。世間知らずというもんだ」

「黙って聞け。馬鹿野郎。てめえが口を出す幕じゃねえぞ」

五郎八は厳しく叱りつけた。

だが船に乗って、外国の力は感じることが出来た。厚い鋼鉄で覆われている鉄のかたまりなのだ。というより、海に浮かぶ鉄の砦であった

松陰がこう語ったとき、囚人の人々は一斉に驚きの表情を示した。

私はこれから幕府の取調べを受ける。そこで話すことは今ここで話したようなことだ。私は幕府の役人より先に皆さんに話せたことをよかったと思っている。なぜなら、幕府はやがて倒れる。世の中は、アメリカのように平等の社会になる。その時は、ここにいる皆が世の中を支える人になるの

松陰が人々を見下ろすことなく真剣に真情を語っているこは牢内の人々に伝わっていた。新参の入牢者と在牢の人々の間に妙な一体感が生れていた。松陰がこの獄を去るとき、同囚の人たちは別れを惜しんだ。

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

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