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2015年8月 1日 (土)

小説「楫取素彦物語」第27回

 夜になるのを待ち何とか小舟を見つけて乗り込んだ。波は荒くやっと旗艦ポーハタンに着く。水平たちは接舷を拒否した。刀もその他のものも小舟に残し身一つで飛びうつる。必死で登る。日本語を解するウイリアムスという男がいて話はどうやら通じる。ウイリアムスの手には、「投夷書」があった。松陰は筆談もまじえて必死で訴えた。

 ウイリアムス等は松陰の姿に理解を示した。しかし、アメリカへ連れていくことは強く拒否した。

「日米和親条約が成立したから、両国の往来は間もなく自由になる。それまで待て。国交を結んだばかりの相手国の法律を破るわけにいかない」

「条約の目的は両国の発展にあり。日本は今、生れ変ろうとする一番大切なとき。国民が進んだ社会を学ことは絶対に必要である。私には、その強い心がある。学ぶ意欲と力がある。日本とアメリカ両国の発展に尽くしたい、是非とも連れてってくれ。頼む

松陰は頭を下げて頼んだ。しかしウイリアムスは首を横に振っている。

戻されれば首を切られるだろう。死ぬことは恐れないが、無駄な死は意味がない。新しい社会をつくるための学びに命をかけたい。どうか、どうか連れて行ってくれ」

 松陰は、刀より大事と身につけていた筆で命、死、新しい国、日本、理想の国、などの言葉を書き、その一つひとつに魂をぶっつけるように、時には大声をあげ、こぶしで胸を叩き訴えた。墨痕鮮やかな筆先は松陰の訴えをそのまま見事に表している。長年の学問修業の歴史を筆先は雄弁に語っている。筆は書く人の人格を現すが、それは国境を越え人種を超えて通じることを証明していた。

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

 

 

 

 

 

 

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