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2015年8月23日 (日)

小説「楫取素彦物語」第34回

「条約を結んだ直後であった。ペリーは、大統領の国書を持ってやってきた。有史以来初めての両国の対面だった。条約締結は信頼の証。国禁を破る罪人を助けることで、この信頼を破るけにゆかぬと言われた。考えてみればその通りだ。長崎の帰りに萩に寄ったとき、貴公が、熟慮を求め、杉家の人を悲しませるなと言ったことが思い出された」

「あなたの体験は貴重です。幕府の処罰が軽かったことには大きな意味があるのではなかろうか。日本が条約によって世界に出ていこうとしている時、若者が海外に目をむけることを国禁として罰するなどおかしい。幕府もそれが分かっているのであろう。あなたの直接行動はそのことも明らかにした。それだけでも大きな成果ではないか」

 伊之助が熱心に論じるそばで寿がしきりにうなずいている。

「かたじけない。その言葉で私は大いに勇気づけられた。この牢にいつまでいるかからぬが、天が与えた時と受け止め勉強するつもりだ。出来るだけ書物を読もう。書を読むにはまたとない環境。兄梅太郎も同意見で書を集めるためにすでに動いている。貴公は学者ゆえ書のことには格段の知見を持っておられる。協力して欲しい」

国事に奔走する松陰にとって、牢獄外にゆっくり本を読む場所はない。正に天が与えた時であった。

「もとより全力で頑張ります」

伊之助はきっぱりと言った。

松陰は、出獄する翌年の十二月十五日までに総計六一八冊の書物を読んだ。正に驚異的だ。

 獄中にあって猛勉強する姿は知識を求めようとする固い決意の現れとして黒船に乗り込む姿と重なる面がある。兄梅太郎や伊之助は松陰が求める書物を必死で集めた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

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