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2015年8月 2日 (日)

小説「楫取素彦物語」第28回

 「条約を結んだことはそれを守ることに条約の命がある。お前は、戻れば幕府に首を切られると言った。それ程に重大な違法行為に、条約を結んだばかり国が手を貸すことが出来るはずがないではないか。最初から、第一歩から条約を破ったら条約の意味が失われる。大統領の権威と信頼がかかっているのだ。お前の気持は分かるが、それでも、連れていくことは出来ない」

ウイリアムスは、大変苦労して、時間をかけ、繰り返しの説明を重ねて、これだけことを訴えた。初対面の異国の若者、傍若無人でもある男に、これだけの努力を示したことは松陰に最大の敬意を払ったことも物語っていた。

松陰は抵抗を示しながらも押し出され、小さな舟に乗せられ、浜へ連れ戻された。松陰と重之助は浪打際に大の字になって寝て天を仰いだ。半月が二人を見下ろし、波の音がしきりであった。

ああ、この波がアメリカにつながっているのに

松陰は唇を噛んだ。

 松陰は逃れられないと覚悟を決め下田の番所へ自首した。そして江戸へ送られ北町奉行所の仮牢に収容された。

 誇り高い天下の志士が入牢時は屈辱的な扱いを受けた。この世界のしきたりで例外はない。牢内の秩序を預かるものは牢名主である。例外をつくれば権威にかかわる。

 松陰と重之助は獄内へ入ったとたん、牢名主の前に引き出され座らされた。

 一段と高い所に座っていた男が格好をつけるようにあごを突き出し、睨みつけて言った。

「やれ」

「へい」

わきにいた二人の男が心得たように言って松陰と重之助の頭を床に押しつけた。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

 

 

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