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2015年6月13日 (土)

小説「楫取素彦物語」第12回

 門弟には、折からの時代の激流の中で、何かを求める有為な人材が集まっていた。伊之助は、鎖国であることを忘れさせる世界に目を見張った。そして学問とは時代の先を見る目を養うものであり、時代の課題を解くためのものでなければならないことを知った。

 長州は人材育成の策として優秀な人材を藩外に修業に出させていた。江戸で学ばせることは藩のこの政策の中心であった。伊之助が江戸で学んでいる頃、松陰は諸国を旅しそれぞれの地で著名の人物と会い、また、各地の特色や実情についで学んでいた。旅は、今日でも現実を学ぶ最高の教室であるが、歩いて諸国をめぐる旅は格別の意味があった。

 松陰は幼少から限りない本を読んだ。それを思い出しながら歩くのである。旅は学んだことをさらに深く考える機会であった。学んだことが机の上の学問であったと気付くことがあった。激しい時代の風の中で、書物で学んだことについて新たな疑問が湧く。草鞋で踏み締める大地がそれに答えてくれる。

 旅を進めるにつれ、分かったつもりのことにまた疑問が深まる。疑問が深ければ深いほどに悩めばそれに応じて大地は松陰に答えてくれた。松陰にとって大地は偉大な師であり測り知れない深さを持つ教室であった。旅の成果を携えて、その先で、その地の学者に教えを乞い議論した。

 嘉永三年、二十一歳の松陰は九州を旅した。特に長崎平戸では五十余日も滞在し、後に述べる特異な人物にも会い、世界の情報に接し心を躍らせた。翌、嘉永四年、藩主に従って江戸に出て安積艮斉や佐久間象山に学んだ。この年、藩の許可なしに東北への旅に出てきついお咎めを受けることになる。水戸、会津、新潟、佐渡、秋田、引前、青森、盛岡、仙台、米沢等を歴遊し、嘉永五年四月、松陰は江戸に戻った。

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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