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2015年6月14日 (日)

小説「楫取素彦物語」第13回

嘉永五年のある日、江戸の長州藩邸で二人の若者が話し合っていた。松陰と伊之助である。松陰は亡命問題で迷惑を掛けたことを先ず詫びて二人は話に入った。

「さすが江戸見る、聞くことみな驚くことばかり

伊之助が言った。

「その通りです。衰えたとはいえ、二百五十年も続いた徳川の力。侮ることはできませぬぞ」

 松陰は顔を上げ鋭い視線になって伊之助を見た。

「様々な情報には驚くばかりだな。江戸へ出て、長州の自分は井の蛙であることが分かりした。学問も、大家の説に接すると自分がやってきたことが小さく時代遅れのものに見えてなりません。我が家の儒学も根本に光を当てねばならんと思う」

伊之助がチラと心配そうな表情を見せた。

「そのことだが、私の場合、兵学ゆえにより切実なの。象山先生に会って外国の火力が如何に強大かを知った。攘夷は言うは易いが実行は並大抵なことではない」

「我々の意識を根本から変える必要がある」

「その通りです。この国が置かれている危険な状況を若者がしっかり受け止めねばならない。若者の目を開き心を育てねばならない。私は国へ帰ったら新しい塾を開きそのことを是非やってみたい」

松陰の言葉は次第に熱をおびてきた。

「藩校は伝統に縛られて新しい時代を受け止められないでいる。あなたのいう塾には賛成です」

「事はさし迫っています。昨年のことです。私は長崎の平戸に五十日以上も滞在して驚くべきことを見聞きした」

「そんなに長い間何をなさっておられたのですか

「あそこは面白い所です。大きい声では申されぬが、手引きする者があって思わぬ所へもぐり込んで国法に触れるようなことも見聞きしたのです。私はあそこで、いまは改革を起こすとき、救国のためには国法も破らねばと実感したのです」

 伊之助は重大なことを平然と話す松陰の目を正視した。そして、この男は私を信頼しているなと思うと嬉しくなるのであった。

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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