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2015年6月 7日 (日)

小説「楫取素彦物語」第11回

 嘉永三年伊之助は大番役に任ぜられ江戸の藩邸で勤務することになった。明倫館の諸友はこれを大いに羨んだ。

 明倫館で学ぶ仲間に北条源蔵という若者がいた。伊之助より二歳年下で伊之助と成績を競うほどの英才であった。後年、日米通商条約批准のためポーハタン号で便節が渡米した折随行員に選ばれた男である。二人は心を通わせ、議論し励ましあう仲であった。伊之助の出発が近づいた時、源蔵が言った。

「江戸行きおめでとう。羨ましい限りです。江戸はなんといっても学問の中心。諸国の人材が集まっています。江戸に比べたら長州の我等は井の中の蛙ですからね

ありがとう。蛙であることを胸に置いてしっかりと学んできます。源蔵殿の分まで頑張る決意です」

「江戸には、佐久間象山、安積艮斉、佐藤一斉など、名だたる学者がひしめいています。そして、そこには諸国の優れた人物が集まっているでしょう。想像するだけでもわくわくしますね」

「そうです。鎖国とはいえ、江戸には、世界に通ずるわずかな隙間から海外の情報が集まっているに違いない。一人の師に出会うことは数百の書を読む以上の収穫があると思う。私は天下の江戸に謙虚な心で挑戦するつもりです。君にはできるだけ、江戸の情報を伝えることにしよう」

 二人は固く握手して再会を誓った。当時、学問で江戸に向かうことは、今日の若者が外国に留学する以上の一大事であった。心に期するところのある伊之助にとっては正に冒険の旅であった。

 伊之助は村田清風の紹介書を携えて安積艮斉に会いその塾に入った。艮斉は幕府の学校昌平黌の教授としてアメリカの国書を翻訳した人である。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。

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