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2015年5月10日 (日)

小説「楫取素彦物語」第3回

 

 三兄弟は厳しい社会状況の中で一心に学んだ。下の二人はそれぞれ上の兄を見習いながら勉学に打ち込んだ。

明倫館に入る以前のある日、久米次郎は剛蔵兄に尋ねたことがあった。

「兄上、勉学の目的はどう考えたらよろしいでしょうか」

「もとより藩のお役に立つ人間になるため。久米次郎よ、時代は大きく変わろうとしている。この変化を正しく見る力は学問である。

 今、我が国は大変な時を迎えようとしている。外国の脅威なのだ。外国を知るカギは学問だと心得よ。やがて新しい時代が来る。新しい時代を生きる力も学問なのだ」

「新しい時代とはどんな時代でしょうか」

「幕府もなくなり、朝廷の下で日本が一つになるだろう」

「夢のようですね、実現するのでしょうか」

「その時はきっと来る。そうしなければ日本は外国の支配下になってしまうのだから、必然の道、忘れるでない

剛蔵は鋭い視線を久米次郎に投げきっと唇を結んだ。

「そして、港を開いて外国とつき合う時代が来るに違いない。その時日本人として恥じない力はやはり学問なのだ。そのことを心して励まねばならぬぞ」

剛蔵は遠くを見るようにしていた視線を再び弟の顔に移して言った。

「よく分かりました。兄上、学問の真の目的が見えてきて学問する強いこころが湧いてくるようでございます」

「それからもう一つお前に言い聞かせたいことがある。新しい時代というのは、この国が一つになることだから、藩という壁はなくなるだろう。朝廷の命によって遠いところへ出向国のためにする事もあるに違いない。例えばお前が東国の果てで仕事をすることも有り得るの。新時代に備えるとは、そういう広い心を養うことなのだぞ」

久米次郎は兄のいう東国とは何だろうと思いを巡らすのであった。剛蔵は自分の話を弟が真剣に受け止める姿を見て我が意を得たりと思った。そして、以後、時々時局を語るようになった。

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説・楫取素彦物語」を連載します。

 

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