« 人生意気に感ず「国会論戦と憲法9条。自衛隊員の自殺率。アメリカの現実」 | トップページ | 小説「楫取素彦物語」第9回 »

2015年5月30日 (土)

小説「楫取素彦物語」第8回

松陰の家は武家の家ではあったが家計は厳しくつましい暮らしぶりであった。父の兄弟は大変な勉強家で深い学識を身につけていた。父百合之助、その弟で二人の叔父大助と文之進である。

 

 父は畑仕事をしながらも本を離さず、畑から引き上げて家で米を搗くときも本を読む人であった。松陰は寺小屋などに通わず家で勉強した。父百合之助は畑仕事をしながら書物を教えた。

 

 松陰の教育には父と叔父の玉木文之進があたった。文之進の教え方はこの上なく激烈で厳しかった。容赦なく鉄拳が飛んだ。

 

「お前は前に教えたことを忘れたのか。学問を何と心得ておる。お前の性根がたるんでいる証拠だ」

 

「申し訳ございません」

 

「申し訳ないで済むと思うか、愚か者め。この書を作った人がいかに心血を注いだか、この書が如何に多くの人を動かし国家を支えたか、そのことに思いをいたさぬ者に、学問で生きる資格はないぞ。今は国難の時、それを救うことに学問の使命がある。このことをもう一度考えよ」

 

「ハイ、よく分かりました」

 

松陰はあくまで純真だった。叔父の言うことがよく分かるのであった。

 

 母滝は物陰ではらはらしていた。ある時松陰は庭に投げ出されたことがあった。その時、滝は遂に口に出していった。

 

「お前、大丈夫かい。どうして逃げないの」

 

「母上、心配なさらないでください。叔父は、それ程に私のために真剣なのです。父上も申されました。私への期待が大きいのだと。私はどんなことも耐えて頑張ります」

 

松陰に母の温かさが伝わった。母の後ろで、二人の妹はおろおろしていた。特に末の妹文は泣き出さんばかりであったが、元気な兄の姿を見てほっとした表情を見せた。玉木叔父の教えが厳しいぶん、母や妹たちの存在は大きな支えであった。

 

 

 

※土日祝日は中村紀雄著「小説・楫取素彦物語」を連載します。

 

|

« 人生意気に感ず「国会論戦と憲法9条。自衛隊員の自殺率。アメリカの現実」 | トップページ | 小説「楫取素彦物語」第9回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 小説「楫取素彦物語」第8回:

« 人生意気に感ず「国会論戦と憲法9条。自衛隊員の自殺率。アメリカの現実」 | トップページ | 小説「楫取素彦物語」第9回 »