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2015年5月17日 (日)

小説「楫取素彦物語」第5回

剛蔵は慌てるなと目で制して語りだした。

「大阪奉行所の元与力大塩平八郎と申す者

「エッ、ではあの陽明学者の」

「そう、知行合一を命を捨てて実践したのだ。米が不足して、餓死者が出るほどの窮状なのに大阪奉行所は救済策をとらなかった。さらに富商が米を買占め暴利を貪るのに何も手を打たない。耐えかねた大塩は門弟や民衆を動員して武装蜂起した。それのみか、五万巻の蔵書を売って千両余りの金をつくり、それを3日間で一万戸の窮民に施したの

「何と大胆不敵」

思わず久米次郎は口を挟み固唾を呑んだ。

「陽明学の知行合一。君子の善に於けるや必ず知行合一す。君子もし善を知って行はずんば即ち小人に変ずる機なり。大塩は、結果の如何よりも、日頃の信念を天下に示し幕府の非を糺すことを選んだに違いない。彼の行動は為政は何のためにあるかを身をもって示した。この点はお前もよく腹に据えておかねばならぬ

「はい、兄上。生きた学問の例、久米次郎肝に銘じます」

大塩は檄文をまき、救民の旗をかかげ大砲を放って行進した。参加者は三百人。その大部分は大阪の細民と近在の百姓で、大阪の五分の一を焼き払ったそうだ」

「兄上、絵巻を見るようでございます」

 久米次郎は興奮して声をあげた。

それを目で制して剛蔵は続ける。

「大阪の役人の狼狽ぶりは異常であったという。鎮圧に当たった二人の奉行は

馬から振り落とされ町民の物笑いとなった。これが、泰平に慣れ、飢えた民衆

にも心を動かさない幕府の役人の実態なのだ。こんな幕府が国を守ることが出

来ようか。

幕府は大塩らに反逆罪を宣告し、死骸を磔に処した。これは幕府の受けた撃

が如何に大きかったかを物語っている

※土日祝日は中村紀雄著「小説・楫取素彦物語」を連載しています。

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