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2015年5月 3日 (日)

随筆「甦る楫取素彦」第198回

 

この投書を受け二六新報社は沸き立った。調査のため社員を郭の客として送り込んだというからその意気込みがわかる。つまり、一人の社員は変名で、客として娼妓九重を買って綾衣の心情を探った。この九重は綾衣の同郷人であった。このようにし綾衣の心情(決意)が本物であることを知った二六社は実行に移った。郭、浅草警察、二六社、この三者の攻防は実に面白い。その底には、太政官布告、それを踏まえた娼妓勝訴の判決、この判決によって方針をかえた内務省の見解等があった。

 

判決や法令・規則が動いてもそれを無視する現実の壁は厚い。それを突き崩すには理論を武器とした戦いが必要であった。現実とは、公のものとして何百年も続いた陋習(ろうしゅう)である。戦いとは、「権利のための闘争」であった。

 

綾衣(あやぎぬ)救出の実行は次のように行われた。弁護士は綾衣に面会し改めてその決心が固いことを確かめ、廃業届けに関する委任状を受け取り、楼主に廃業届けの署名押印を求めた。すでに判例によって廃業の自由は認められていた。そして、判例は、楼主の署名押印の拒絶は許されないことまで判決していた。しかし、「許されない」としても、現実に署名押印しない壁をどう破るのか。取締規則では警察は署名押印がなければ受理しないとなっており、現実にはこれが重みをもっていた。内務省は見解を変化させていたがまだ活かされていない状況下にあったのだ。

 

※土日祝日は中村紀雄著「甦る楫取素彦」を連載しています。

 

 5月6日からは「小説 楫取素彦」を新連載します。

 

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