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2015年4月29日 (水)

随筆「甦る楫取素彦」第196回

 ここで、「女郎衆に与ふる書」を紹介する。要点である。一部表現をかえてある。 「気の毒なる御身の上を思うにつけどうしても黙っていられませぬから一筆かいてあなた方に差し上げるわけであります」と始め、候文の時代に女郎にもよめるようにと易しい文章でつづる。 「たとい九尺ニ間の裏棚で、たどん玉をまるめ、マッチの箱をはり、又は田舎で日にやけて真黒になりながら田の草をとり、肥おけを担いで働くとも、正直律義な家業で亭主こども一緒に暮らせば誰に遠慮もなく貧乏な中にもたのしみがあるけれども、あなた方のように、かごの中の鳥同然、狭い部屋に閉じ込められ、いくらかきれいな着物を身につけているにせよ、夜昼気にそまない人の機嫌を取り、親不孝者、不忠義者、酒のみ、うそつき、泥棒など世間で一番賤しい人間に、かわるがわるからだを玩具にされ、悪い病気をうけ、お医者にいやな検査をされ、からだは衰え、こころは苦しく、借金は日増しにふえ、いつ自由になれるかあてどもない。およそ女郎ほど、苦しくて、悲しくて、恥かしく又罪の深い仕事が人間の世界にありましょうか。あなた方は、是非とも速やかに道ならぬ世渡りを止めようと決心せねばなりませぬ。そんならどうして止めることが出来るかと申すに、有難いことには、明治の御世のごきそくでは、かりにあなた方にどれ程の借銭があるにせよ、生きた人間を質にとって、無理につらいつとめをさせることは出来ないということが、ちゃんと明白に定まっておりますゆえ、あなた方がただぜひともこのいやらしい仕事を止める覚悟を定め、廃業届けというものをその筋に差し出しさえすれば、借銭の有無にかかわらず、あなた方は直ぐに女郎を止めることが出来るようになっています。このことについては名古屋あたりから裁判さたもありましたがいつでも女郎衆の申分が通っています。さて、あなた方が、浮気家業を止めた場合、これ迄のようにだらしなくしていてはたちまち食うに困ってしまうから非常に奮発をして、地味で律義な家業を覚え、実を堅めることを心がけねばなりません。それには、東京芝区に救世軍の本営という所があって、そこへ頼めば色々あなた方の相談になってくれ、また随分後々の世話をしてくれることになっております。この救世軍は世界中どこの国でも、あなた方のような不幸な婦人を救うために、非常に骨を折っている仲間ですから、安心してお頼みなさるが好い事であります。」

※土日祝日は中村紀雄著「甦る楫取素彦」を連載しています。  5月6日からは「小説 楫取素彦」を新連載します。

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