« 『炎の山河』第5章 地獄の満州 第47回 | トップページ | 『炎の山河』第五章 地獄の満州 第49回 »

2013年4月28日 (日)

『炎の山河』第5章 地獄の満州 第48回

 松井かずの心は羽が生えたようで、黙っていても笑顔がこぼれた。もう、心は日本へ飛んでいた。松井かずが日本を出てから30年が過ぎようとしている。彼女は、鏡に写る自分の顔を見て、改めて、30年の歳月の長さを思った。この間、日本はどうなっているだろうか。早く日本が見たいという気持と共に、日本がどうなっているか不安でもあった。

私は、帰国を目前にした松井かずの話を聞きながら、終戦直後、赤城山で開墾生活をしていた頃の母の姿を思い出していた。勢多郡宮城村の奥地の人里離れた開拓地で生活していた私たちは、たまに町へ出ることが何よりも嬉しかった。明日は一年ぶりに総社町山王の実家へ帰るという日、母は、農作業をしながら“明日は山王、うれしい”と節をつけて歌っていた。母のはずむ心が、そばにいる私にも伝わってくるのだった。群馬県の奥地から近くの実家へ一年ぶりに帰る母の喜びさえこのように大きい。これと比べたら、松井かずの喜びがどのようなものか、おそらく、それは、私たちの想像を超えるものであったろう。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著『炎の山河』を連載しています。

|

« 『炎の山河』第5章 地獄の満州 第47回 | トップページ | 『炎の山河』第五章 地獄の満州 第49回 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『炎の山河』第5章 地獄の満州 第48回:

« 『炎の山河』第5章 地獄の満州 第47回 | トップページ | 『炎の山河』第五章 地獄の満州 第49回 »