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2013年4月 7日 (日)

『炎の山河』第五章 地獄の満州 第42回

 手紙は、今頃どこを。松井かずの心は、仕事をしながらも、手紙を追って日本のどこかへ飛んでいた。それは、日本海の荒波が打ち寄せる佐渡であり、かつて彼女が日本を離れた新潟湾であり、前橋の町並みであり、また、吾妻の山や川や村々であった。

 恋人の返事を待つ少女のように、松井かずは父の手紙を待った。ゆっくりとした時の流れがうらめしく思えるほどじらされた後に、彼女は一通の手紙を受け取った。それは、日本からの手紙で、紛れもない、懐かしい父の筆蹟であった。

「わぁー、とうとう来た」

松井かずは、思わず大きな声で叫び、手紙を抱きしめていた。手紙には、「長いこと心配していたが、無事であることを知って喜んでいる。こちらも、父、母、兄、姉妹たち、元気でやっている。早く日本へ帰ってくるように。皆、かずに会いたがっている」旨書かれていた。長いこと飢えていた肉親の温かさが、行間から伝わってくる。松井かずは、ポロポロと手紙の上に涙を落とした。今までの苦しかったことが思い出された。そして、ああ、生きていて良かったと思った。彼女の心は浮き立つ思いで、今すぐ日本に飛んで帰りたい気持であった。

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