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2011年1月 2日 (日)

第五章 地獄の満州

一筋に祖国を求め続け、日本人だと注目される中で、日本人としての誇りをもって子どもを育て、自らも行動してきた。松井かずは、勝利の快感に似た気分に浸りながら、中国に残してきた5人の子供たちの顔を一人一人思い出していた。<全然苦労していないじゃない>という同級生の言葉は、むしろ彼女の幸福感をくすぐった。苦労を他人に分かってもらえなくても、自分は十分に幸せだと思った。また、<全然苦労していない>と言われたことは、中国大陸の血生臭い海を泳ぎ抜いて、今、子ども達と共に明るい日差しの中にいることを評価されたように思えて、彼女はむしろ嬉しかった。

 姉の家で一泊した後、松井かずは、母の待つ生家へと向かった。生家は姉の家から、車でさほどかからぬ所にあった。懐かしい生家も昔のおもかげはとどめていなかった。

「かず、よくかえったね。ずい分苦労したろうね」

年老いた母は、しきりと涙をぬぐっている。握り合う母に手の上に、松井かずの涙が落ちた。中国でいつも頭に描いていた母も、すっかり年をとっていた。体が小さくなり、白髪としわが目立つ母の姿を彼女は痛々しく思った。松井かずは、母の姿のよって戦後豊かな日本が作られるまでに、日本人は大変な苦労をしたのだということを知らされた思いであった。

※土・日・祝日は中村著「炎の山河」を連載しています。

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