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2011年1月10日 (月)

第五章 地獄の満州

自分は日本人であるが、娘やこの孫には、自分の血と中国人の血が一つに交じり合って流れている。思えば、敗戦直後の動乱の満州をよく生き抜いてこられた。死んでいった開拓団の人々のことが思い出される。生と死を分けたものは些細なことであり、また、ちょっとした偶然であった。その些細なこと、ちょっとした偶然の故に現在の自分があり、娘があり、そして、この孫がある。人生とは、このようなものか。松井かずは、無心に眠る孫の顔をのぞき込みながらこう思うのであった。

 娘や孫にかかわっている間に、何年かが過ぎた。そして、松井かずがいよいよ帰国することになったのは、昭和56年のことであった。自分が帰国し、生活環境を整えてから家族を日本に呼ぼう。松井かずはそう考えた。もうこの頃は、中国の人々に日本の復興ぶりや生活の様子などが伝わり、日本へ行きたいという人が増えていた。松井かずの家族や親戚も彼女の話を聞いて、みな、豊かな国日本へ行きたいと言い出した。隣近所の中国人、職場で話を交わす中国人も、にこにこと彼女に話しかけ、日本のことをききたがった。彼女は、祖国日本が中国人に見直され、自分までが大切にされていると思え、嬉しかった。

 日本へ帰ってみると、母の病気が進んでいた。母ふじは、沼田のほたか病院へ入院していた。松井かずは、母の枕元で、中国のことを語った。母が眠ったかと思い、話を止めると、母は彼女に手を伸ばし、話の先を聞きたがった。

※土・日・祝日は中村著「炎の山河」を連載しています。

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