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2011年1月 3日 (月)

第五章 地獄の満州

松井かずにとって、とても悲しいことがひとつあった。それは、松井かずとの再会を何よりの楽しみにしていた父が、彼女の帰国を待たずに世を去ったことである。彼は、松井かずの写真をいつも身につけ、病床にあっても離さず、いつも写真を見ては、帰りを待っていたという。松井かずは、母と共に父の墓をもうで、30年を振り返りつつ花を供した。

日本での生活は、見るもの、聞くこと、みな彼女にとって驚きであった。姉は、松井かずのために一着のブラウスを用意してくれたが、彼女はどうしてもそれを着ることができなかった。それは色鮮やかな柄のものであった。中国では、女は、冬は黒、夏は白地の無地の服装をするのが常であったから、柄ものを着るには大きな抵抗感があったのである。同級生はみな、色鮮やかな柄ものを身につけている。それは、彼女の目には奇異に映った。

 松井かずは、兄弟たちと買い物に行くが、そこでも、日本人の行動は彼女にとって目を見張るものであった。中国では、お金を盗られないようにと、あっちこっちのポケットに隠して入れる。日本人は、財布を手に持ったり、お金を外から見えるポケットに入れて平気で歩き回っている。それでも事件が起きないということが不思議であった。買った物を自転車につけて外に置いても盗られることがない。日本は本当に平和で豊かな国なのだなと彼女は思った。

※土・日・祝日は中村著「炎の山河」を連載しています。

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