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2010年5月 9日 (日)

③大陸の花嫁

―新日本の少女よ大陸に嫁げ。彼女たちの行手に待つ地獄―

季節は秋だった。見渡す限り人影もない果てしなく続く草原を汽車はどこまでも走り続ける。この静かな草原のどこに争いごとがあるのだろうか、匪賊の襲撃とか皇軍が命がけで戦っているとか、彼女たちには信じられぬ思いであった。それにしても、夫となる人が待つ開拓地はどこにあるのだろうか。そして、そこにはどんな生活が待ち受けているのだろうか。彼女たちの心に頭をもたげる不安の影を追い払うように、いままで見たこともない光景が次々と目に飛び込んでくる。大きな真っ赤な太陽が草原を赤く染めながら沈んでゆく様を見て、彼女たちは思わず、「わあー」と歓声を上げた。やがて辺りは暗くなって、汽車はレールをきしませながら闇の中を突き進む。その時、彼女たちは行手に異様な光景を見て、また「わあー」と叫び声をあげた。それは火の海であった。野火である。闇の草原に、赤い波が広がるように火が揺れ動いている。その火はどこまでも燃え広がってゆくようであった。野火は満州の名物である。燎原の火とは、このような光景をさすのであろう。火の美しさに見とれていた彼女たちは、やがて我に返ると、目の前の火が自分たちの前途に待ち受ける運命を暗示するもののように思え、不安に駆られるのであった。彼女たちは、駅で出迎える若者と感激の再会を果し、馬車に分乗して開拓地へ向かう。彼女たちの心は複雑だった。それは、これから夫として共に人生を歩む若者と会えたことは大きな感激であったが、開拓地の実情は、話に聞かされていたこと、また、自分が夢に描いていたこととは大きく異なることが次第に分かってきたからであった。

しかし、もう後戻りすることは不可能である。ここを自分たちの戦場と覚悟を決めて頑張るより他に道はなかった。夜になると、凍った外気を震わせて狼の鳴き声が伝わってくる。何一つ娯楽はなく、また物資に乏しい、ただ働くだけの単調な生活環境だった。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「炎の山河」を連載しています。

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