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2009年11月 7日 (土)

遙かなる白根 第139回 子どもたちの叫び

O君が配属された寮は三寮といった。そして、一つ年上の人と二人で生活することになった。それから間もなく寮長がT先生に変わった。そこでO君とT先生が出会うのである。初めの印象は、厳しそうな人で嫌だなと思った。そして間もなく、二ヶ月後のバドミントン大会に向けてO君たちは、T先生と猛練習をすることになった。O君は初め上手でなかった。T先生と試合をやると必ず負けた。45、6歳の中年のおやじに負けるのが悔しくてO君は一生懸命練習した。

「まだまだ若いもんには負けねえぞ」

先生はそう言ってにやりと笑った。O君も思わず笑顔を返していた。汗を拭いながらO君は、この時はじめて、T先生と心が通じ合えたと感じた。そして、ダブルスの大会に出場し、2位になり賞状をもらった。それはO君が中学校の生活で初めて手にした賞状だった。T先生はO君の手をしっかりと握って、よくやったと自分のことのように喜んだ。O君は最高に嬉かった。

 次は、教護院恒例の野球大会が待っていた。O君は野球が嫌いであるが、野球部の一人が脱走して欠員が生じ、T先生はO君に入部してくれと頼んだ。O君は、T先生に頼まれれば断れない。入部して練習が始まったがO君はすごく下手でバッドが当たらないし、投げた球が違う方向に飛んでいったりする。

「バットを持って外で待ってろ」

ある日O君は、急にT先生から言われた。言われた通り晩飯を食べた後玄関で待っていると、T先生の車が目の前で止まった。

「乗れ、いいか、学院を出るまで伏せていろ」

T先生は後ろも振り向かず、低い声で言った。車にはもう一人の生徒がいた。行き先は、バッティングセンターだった。

 外に出してもらえる。しかもバッティングセンターに連れていってもらえるなんて、O君にとって夢のようなことである。もし、他の先生や生徒に見つかったら大変なことになることをO君はよく知っていた。

★この連載も、1121日で終わります。次の連載は拙著「炎の山河」です。「地方から見た激動の昭和史」という副題がついています。恩師の林健太郎先生が「すぐれた歴史叙述」と評価してくれました。どうか、ご覧下さい。

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