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2009年10月18日 (日)

遙かなる白根 第133回 子どもたちの叫び

それは、太股の所から皮膚を取り、足首の所へ移すというやり方である。その病院では、初めての手術なので回りの医師達は、成功するだろうかという感じで見ていた。手術は大成功だった。Yさんは歩けるようになって退院したが、太股の傷は残った。Yさんは成長するにつれ、太股の傷を心の負担と感じるようになった。

 小学校6年の時、体育で水泳があり、Yさんは仕方なく泳いだ。皆の目が太股に突き刺さるように感じた。男子に太股の傷のことを言われ、泣いて家に帰った。死ぬほど恥ずかしかった。とても辛い思い出だ。

 Yさんは開善学校へ来てからも、水泳合宿の時、いろいろな人が陰で太股のことを言っていると知らされた。開善学校に来ても、まだ太股の傷から逃れることはできない。Yさんは悲しかった。しかし、追いつめられて、自分が強くならなければならないという気持ちも湧いてきた。

「そのくらいではめげないぞ」

と心の中で自分に言い聞かせた。

 以前と違うのは開善学校に入って、とても良い友達がいることだ。

「傷を持たない人間はいないよ。皆どこかに、何か持っている」

ある友達は、こう言った。Yさんは、これを聞いて、ハッとした。目の前が開けるように思った。

またある友達は言った。

「今年の水泳合宿でそんなことを言ったやつがいたら私が文句言ってやる」

Yさんは嬉しくて胸が熱くなった。こういう友達がいれば、とやかく陰口を言う人がいても平気だ。Yさんは、こう思えるようになった。そして自分の心が明るく膨らんでゆくように感じられた。太股の傷より心の傷の方が重大なのだとYさんは気付いた。Yさんは寮生活が楽しくなった。開善学校に入って良かったと思った。

◆土・日・祝日は、中村紀雄著「遙かなる白根」を連載しています。

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