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2009年9月13日 (日)

第5章 子どもたちの叫び

― 脱走「シャバだぜざまあみろ」 ― “シャバだぜ、ざまあみろ”これは、「白樺」50号に載った、高等部を卒業してゆくある生徒の“一言”である。両親と並んで撮った写真の下にこの言葉がある。逞しそうな少年の姿とこの言葉を、私はしばらくの間見比べていた。白根の山中ではいろいろなことがあったのであろう。厳しい自然、苦しかった人間関係、心の葛藤、そういう様々な試練がこの少年をつくったに違いない。この少年は都会を追われ、都会を逃れてこの山の学校に来たのかもしれない。そして、再び懐かしい都会へ帰ってゆく。心も体も逞しくなった今、時間と空間によって隔てられていた都会が一層輝いてみえる。閉じ込められた別の世界から人間界へ帰ってゆく。都会は正に娑婆なのだ。俺をいじめた奴等に、また、弱くみじめだった、かつての俺に別れを告げるのだ。やり通したという快感と周りの人々を見返してやりたい心理。それが“ざまあみろ”なのだ。脱走をやった仲間もいた。人目を忍んで実行した脱走ではなく、堂々と白樺林を後にして白樺の山を下る少年は、辛かった山の日々を振り返って、万感の思いをこめ「シャバだぜ、ざまあみろ」と心の中で叫びをあげたのだ。この少年もここに辿りつくまでに、長く困難な道のりがあった。それは、白根開善学校で生きる他の子ども達も同様である。白根開善学校には、都会からやってくる子が多い。かつて住んでいたところと白根の山中は、環境があまりに違う。しかも耐えられないような辛いことが多い。その解決のための選択肢の一つが、この山を抜け出すことである。「脱走」という言葉は厳しすぎる表現のようであるが、開善学校では、創立以来、この言葉が使われている。ある意味では、これは一番ふさわしい表現なのかもしれない。冬のある日、雪が1メートル近く積もった白根の山から、1人の少年がスキーで脱走した。 ◆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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