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2009年9月 6日 (日)

遙かなる白根(第117回)100キロメートル強歩序曲

太陽は西の山に傾き、夕食前の各寮は、白樺の木々に囲まれて静かだった。その時、叡智寮の一角の窓から白い煙が建物の壁面をはうように漏れているのが見られた。煙の勢いは見る間に強くなり、赤い炎が黒煙の中に立ち上がり生き物のように激しく動いた。

「火事だー」

「叡智寮が火事だー」

あちこちの建物から人々が走り出してきた。怒声と悲鳴。静かな白樺林は一変して緊迫した喧騒の場と化した。人々の立ち騒ぐ音にまじって微かにサイレンの音が聞こえてきた。サイレンの音は、入山の麓の深い谷から、また、周りの山々の尾根を越えて、木々を伝い響きあいながら近づいてくる。

 六合村、草津町など近隣の町や村の消防車が駆けつけ、火はようやくしずまった。叡智寮は建物の外形をかろうじて残して中は全て焼失した。他の建物に火が移らなかったこと、怪我人が出なかったことが不幸中の幸であった。

 灰の中から子どもたちの持ち物の残骸がいろいろ出てきた。中には厳しく規制されて持ち込んではならないものもあった。可燃性の器にタバコの吸いがらを突っ込んだものや酒のビンなどもあり、教師を驚かせた。様々な生活用具が炎と水に打ちのめされて半ば炭となり半ば灰となって散乱する様は、これまで寮監の目にも届かなかった子どもたちの生活の実態を雄弁に語るものであった。

 出火の原因は何かということが当然のこととして問題になった。確たる証拠はないものの大方の見方は、タバコの不始末ということになった。子どもたちの“タバコ”もかねてからいろいろ噂され、あるいは指摘されながらも放置されてきた悪しき伝統の一つである。いじめ問題に続いてタバコ問題が、各学年の父母会、父母と先生方との懇談会で討議された。調査したところ、タバコを吸う生徒は例外的存在というのではなく、かなり一般化していること、中には親が黙認している例などもあることが分かってきた。

◆土・日・祝日は、中村紀雄著「遙かなる白根」を連載しています。

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