遙かなる白根(113)100キロメートル強歩序曲
「それは、その通りです。しかし、もう待ったなしですよ。いじめられて恐くて学校がいやだ、やめたいと言って苦しんでいる子が現にいるのですから、この問題は、苦しんでいる子どもの立場から考えてやらなければならないことですよ」
私の子どもが苦しんでいるのですと、この発言者は言わんばかりである。寮で、自分の子どもがどういう状況にあるかによって、父母の考えが微妙に異なり、発言に違いが出るのは当然のことであろう。今まで黙っていた1人の父親がこの発言にうなづいて口を開いた。
「アンケートを見ても、寮の対人関係で悩んでいる子が非常に多いですね。ということは、子どもたちにまかせきりでは解決出来ないということではないですか。父母立学校というのだから、学園をよくするために私たちも積極的に発言した方がよいと思います」
この発言によって会議に方向性が生まれたのか、慎重論はひっこみ積極的な発言が続いた。
「そうです。今、親も子も、悪しき伝統を断ち切ろうという運気が高まってきています。今まで苦しんできた子どもたちの苦労を無駄にしないために、そして、これから開善学校に入学してくる子どもたちのために、そして何より、今在学している全ての子どもたちのために、私たち、勇気を出しましょうよ。開善学校にタブーはないと信じます」
「子どもたちの中にも秩序はあるようです。しかし秩序をつくっているものの中には、悪しき伝統と呼ばざるを得ないものも多いと思います。子どもたちに自由を与えることは大切ですが、自由というものの意味をもっと考えさせ、教えていかなければいけません」
「そうです。理想と現実のギャップということや、思春期の中にいる子どもたちのSOSをもっと受けとめる場所や人が必要です」
◆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。
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