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2009年8月 9日 (日)

遙かなる白根(109)100キロメートル強歩序曲

ここで、本吉校長も、父母会会長も、悪しき伝統を問題にしている。これは何を意味するのか。一つは、上級生下級生の間の上下の関係から生まれるものであろう。パシリということがよく出てくる。これは、前にも触れた通り、

使いはしりをさせることらしい。噂として伝わるところによれば、夜、花敷温泉や草津まで上級生は下級生を使いにやることがあるとか。事実とすれば、これはかなりきついことだ。あの暗い山中、長い距離を真夜中に歩くことは、想像したたけでも身がすくむ。これをさせられた人は、自分が上級生になったとき、今度は、自分の特権のように、下級生にパシリを命令するのかもしれない。このようなことがいつも行われているとは思われないが時には実際にあるのかも知れない。私が前橋市のある知人宅を訪ね、周平が白根で頑張っていることを話すと、もう二十歳を過ぎたと思われる若者と並んで座っていた母親は驚いた顔をして言った。

「この子も体験入学したのよ」

「えっ、本当ですか」

 予期せぬ言葉に驚いた私は、若者と母親の顔を見比べながら、母親の次の言葉を待った。

「すごいことがあったんですって。夜中にね、先輩が、花敷まで買いものに行って来いというんですって。何人かで、この子も加わってまっ暗な山の中を歩いて、帰ってきたら、夜明け近かったというんですよ。それでこの子はこわくなって、結局入学しなかったのです。今から思うと、この子は最初にこわい目をしちゃって。あれだけで白根を判断することは無理よね。運が悪かったのよ」

 その母親は、懐かしそうに、過ぎた日のことを語った。周平が体験入学したとき、同室の者が話していたことは、あるいは、今、母親が語ったことかも知れない。その話の中のパシリをさせられたという子は、目の前の若者のことか。私は、胸の内の驚きを抑えて、若者の顔をそっと見た。

◆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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