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2009年4月29日 (水)

遙かなる白根(76) 100キロメートル強歩序曲

例えば、それは、喜びや悲しみを深く感じる心であり、あるいは、強くたくましく生きる力である。そして、人々の心の世界は、狭くひからびたものに変わろうとしている。まさに人間が人間でなくなろうとしているのだ。頭の中に、知識だけをつめ込んで、心が育たないとすれば、それはロボットと同じであって人間ではない。人間教育は、自然の中でなければ行なえない。自分が人生をかけて、実現しようとしているのは、そういう教育だ。その実現には、ここが最適ではないか。本吉氏はそう思った。

山口仙十郎さんの方に向きなおった本吉氏の上気した顔には、理想に燃える強い決意があらわれていた。本吉氏は、目の前の白樺の林をもう一度見詰めながら理想の教育の実現を自分に言い聞かせるのであった。

 このあたりは、“原”と呼ばれる所で、昔は、村の共有地で村人がたきぎや馬の飼料の草を刈る所であった。戦後不動産業者が土地を買収し、別荘地をつくろうとして整地し水を引いた。別荘利用者は、草津からヘリで運ぶ計画だったという。しかし、途中で、不動産会社が倒産し、別荘地の計画は実現しなかった。その後、顧みられることもなく年月が過ぎ土地は放置された。そして今、再びこの土地が注目されることになった。高齢化と過疎化の進む山奥の部落の人々は、学校建設の話に期待を抱きつつも、にわかに信じられぬ思いであった。

「あんなところに、どんな学校をつくるのだろうか」

「冬は雪が深く並の寒さではない。まちの子がどうやって生活するのか」

「まさか、生徒をヘリで運ぶのか」

ふもとの村人たちは興味深く、このようなことを語り合っていた。

 本吉氏は、山口仙十郎さんをはじめとする村の人たちに接して、自分が学校をつくろうとしている白根の山が、素朴で心温かい人々によって守られてきたところであることを知った。また、深山幽谷というべき僻地でありながら民話や伝説、歴史の遺物も多く、伝統文化が豊かであることを知った。美しい星空、深い谷、そびえる山、川の流れ、厳冬の氷や雪まで、白根の自然はすべて素晴らしい。これら全てが、長い時の流れに耐えて、今、子どもたちを迎え入れようとしている。本吉氏にはそう思えた。そして、疲れ果てた下界の子どもたちのことを考えると、一刻も早く学校をつくらねばならないと彼の心はあせるのであった。

◆土・日・祝日は、中村紀雄を連載しています。雄著「遥かなる白根」

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