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2009年4月25日 (土)

遙かなる白根(74)100キロメートル強歩序曲

「お父さんは、最後まで歩けなかったけど、君は完歩できた。えらかったね」

 私の耳は、はっきりと、校長のこの言葉をとらえた。隣りで妻がそっとハンカチを目に当てた。100キロメートル強歩と同じような苦しい中学の3年間を頑張り通して、周平は白根開善学校中等部の卒業式を迎えたのである。私の方をチラッと見た周平の視線にそれが現われている。

「お父さん、僕、頑張ったよ」

 周平の表情は、こう私に語りかけていた。本当によく頑張った。私は、目からこぼれ落ちそうになるものをこらえていた。この年4月、周平は、白根開善学校高等部に進んだ。

第3章 つくり出す苦しみ

本吉修二氏の決意

険しい100キロの道程を昼夜にわたって歩き通す「強歩」を支えるものは何か。自然の中で心身を鍛えるという建学の精神だけでは不可能なことである。白根開善学校の設立は文字通りの苦闘であったがそれを貫いて目的を達成した自信と信念こそ100キロメートル強歩を支えるものである。学校設立の過程も人々が限界に挑む「100キロメートル強歩」であった。

昭和52年3月のある日、白根の山々は、まだ一面の雪に被われていた。二人の男が、長い雪の坂道を時々汗をふきながら黙々と歩いていた。一人は40代のがっしりとした男で、身なりはかまわないが、その知的な風貌から、土地の者でないことが一見して分かる。もう一人は、かなり高齢の老人である。土地の者らしく、その歩き方は、歳を感じさせず、雪を少しも苦にしていない風で、若い方よりむしろ元気であった。

「もうすぐだよ。あの上だ」

老人は、坂の上を指しながら振り向き、息を切らせている後ろの男に声をかけた。

「そうですか。あそこですか」

男は、白い歯を見せていかにも嬉しそうに笑う。眼鏡の奥の細い目が少年のように光った。

☆土・日・祝日は、中村のりお著「遙かなる白根」を連載しています。

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