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2009年4月12日 (日)

遙かなる白根(71)序章 100キロメートル強歩序曲

周平たちは夜の森をしばらく歩いて、暗い谷を臨む所に来た。道は北に向う坂道を白渕沢の流れまで下り、小さな金山橋を経て、対岸の斜面を南に向かって伸び、山の中腹にある高台へと続く。その高台が小倉の集落の広場である。近づくにつれ前方に光が揺れ、人々のざわめく声が聞こえてきた。ここは「ポイント」ではないが、各地から引き上げてきた父母たちが集まり100キロメートル強歩の終演を見守ろうとしていた。この広場を通って南に下れば小倉の集落を過ぎ、長笹沢を越えて草津温泉に至る。そして、広場を右折して山の頂上を目指せば一気に白根開善学校に近づく。この広場は学校に至る正に玄関であった。

広場の人々は、完歩を目指す最後の一団を拍手で迎えた。パチパチとたき火の中で燃える木がはじけ、炎が人々の姿を赤く照らす。

「頑張れ」

 「もう少しだ、上でみんなが待ってるぞー」

 周平は戦いに勝利して歓呼で迎えられる兵士のような気分で、休むことなく入山の頂上を目指して深夜の杉林に踏み込んで行った。

 小倉の広場から学校まではおよそ30分はかかるが、この道は周平たちにとって我が家の庭のようなものであった。父母達の車は通行を禁止され、強歩にたずさわる学校の車だけが走っている。周平は足下を見詰めて一歩一歩ゆっくりと歩いている。100キロメートル強歩のゴールに確実に近づいていた。周平は呼吸と足の運びにリズムをとるようにして歩いた。こうすると少しは楽に歩けるのだ。苦しい強歩のコースでいろいろなことを学んでいた。足が痛くても工夫して耐えればまた歩くことが出来る。歩きづらい道であっても、必ず次には楽な道に出る。目の前に最後の急な坂が近づいた。これを登れば、学校まで続く白樺林が現われる。

 周平の後から周平が歩く速度に合わせて学校の車がじりじりと進む。低く下げたライトの輪に押し上げられるように周平は歩いた。いつも歩いている道であるが、今周平が歩いているこの道は、初めて出会う未知の道に思える。未知なる道は、周平に何かを語りかけるように、また、100キロを歩いた周平をいたわるように、周平を導く。

☆土・日・祝日は、中村紀雄を連載しています。雄著「遥かなる白根」

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