« 遙かなる白根(68)序章 100キロメートル強歩序曲 | トップページ | 「北朝鮮のミサイル発射、群馬の対応は」 »

2009年4月 5日 (日)

遙かなる白根(69)序章 100キロメートル強歩序曲

入山字長平というこの集落は、周平たち白根開善学校の子どもたちにとっては特に親しみの深い所である。帰省するとき、帰校するとき、また、時々花敷温泉に出かけるとき、必ず通過するのがこの長平である。村の人も温かく見守り、時には子ども達と会話を交わす。大昔からの歴史や文化、それに人情を受け継いで、この村もまた、白根の大自然と共に開善学校を支える重要な柱であった。長平の村の入口に近い小高い所には、ちょっと名の知れた双体道祖神があった。ほほえましい愛の姿が石に彫られているが、言い伝えによると、その昔、美男美女の兄妹が禁を犯して結婚し処刑された。この道祖神はその霊をとむらうものだという。歴史と伝承が豊かな長平の人々は、重荷を背負った開善の子ども達に優しい。周平はほっとするものを感じながら集落に近づきつつあった。長平の集落は静に眠っていた。この集落が尽きる高みに長平公民館はあった。平屋建ての小さな建物である。今はこの集落の公民館として使われているが、昭和62年までは入山小学校の分校であった。道路に面した長平公民館の庭にテントがはられ、数人の父母がたき火を囲んでいた。午後12時が大分過ぎ、そろそろ最後の子ども達が近づくころである。周平の母は先程からしきりに時計を見たり、外の闇に耳をすましたり落ち着かなかった。10軒たらずの長平の家々は、渓谷の闇に飲み込まれたかのように静かである。「あっ、犬の声だ」誰かが叫んだ。「ワンワン」また聞こえた。遠くで鳴く犬の声である。それは人がこの集落に近づいたことを知らせている。周平の母は、暗い道へ飛び出して行った。長平公民館に至る道は、村の真中をくねって緩やかな登り坂になっている。耳を澄ますと犬の鳴き声に混じって微かなチリンチリンという音が聞こえる。周平の鈴の音であろうか。そうであってほしい。彼女は、じっと足もとの闇を見詰めた。 ☆土・日・祝日は、中村紀雄を連載しています。雄著「遥かなる白根」

|

« 遙かなる白根(68)序章 100キロメートル強歩序曲 | トップページ | 「北朝鮮のミサイル発射、群馬の対応は」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 遙かなる白根(69)序章 100キロメートル強歩序曲:

« 遙かなる白根(68)序章 100キロメートル強歩序曲 | トップページ | 「北朝鮮のミサイル発射、群馬の対応は」 »