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2009年3月28日 (土)

遙かなる白根(66)序章 100キロメートル強歩序曲

周平は胸に湧きあがる興奮に我を忘れて暗い坂道に走り込んだ。暗い森に踏み込むと同時に、激しい水音が聞こえ出した。何とも懐かしい流れの音。歩き通して12時迄にこの音を聞くことを目標にして朝4時から頑張った。白砂川と長笹沢川が合流する音である。花敷の温泉街はこの合流点の北側の突き出た所に、二つの川に挟まれるようにしてあった。そして、合流点の南側、花敷温泉の対岸には二つの川の瀬音に包まれるようにして、入山小学校が眠っている。周平は入山小学校を左下に臨む暗い道を進んで前方間近な距離にうっすらと白く開けた空間を見た。目の前に白砂川にかかる小さな橋があった。開運橋である。白砂川の音がサラサラと聞こえる。左手には、白砂川と長笹沢川がぶつかり合う音がザアザアと響いている。この音に混じって人々のざわめく声が聞こえてきた。叫ぶ声が聞こえる。いっぱいの光が目に飛び込んだ。花敷ベーカリーの前の広場が目前にあった。ざわめきと叫ぶ声と人々の視線が一斉に周平にそそがれている。生れて初めて味わう舞台の主役になった気分で、周平は速度を上げテントに向かって一気に走り込んだ。

母の待つ長平公民館へ

テントの中から、そしてたき火を囲む人々の輪から拍手が起きた。

「周平、よく頑張った」

「周平君、間に合ってよかったね」

 様々な声が周平を迎えた。周平はぜえぜえとのどを鳴らし大きく肩で息をしている。胸がいっぱいになって熱いものが目からあふれた。

周平が第20ポイントの花敷ベーカリーに到着したのは、午後11時55分であった。5分の差でセーフ。危ないところであった。必死で走らなければ完歩の資格を逃したに違いない。自分の意志で判断し実行して得た貴重な成果を周平は大地に尻を降ろし、汗をふきながら味わっていた。ついにやった。周平は夢を見ているような気持であった。

☆土・日・祝日は、中村紀を連載しています。雄著「遥かなる白根」

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