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2009年3月20日 (金)

遙かなる白根(63)序章 100キロメートル強歩序曲

 時計は11時20分を過ぎようとしている。このままのペースでは間に合わないかもしれない。去年はこの先の第19ポイント、滝見ドライブインのところで時間切れとなり、バスに乗せられてしまったのだ。周平は急いだ。ごつごつの山道で、時々突き出た石や窪みに足を取られそうになる。いつしか杖はどこかに放り出していた。

 花敷が近い。周平は走った。

 沢にかかる橋を渡る時、流れる風に乗った冷たい霧が頬を撫でて過ぎる。周平は暗い霧の中を泳ぐように歩いていた。登り坂になり、白砂川の瀬音が遠のいたと思うと、また下り坂となり瀬音が近づいてくる。その白砂川の流れの音が前方から一段と高く聞こえてきた。目の前に白砂川に架かる滝見橋があった。白砂川は前方左の深い谷を抉り、滝見橋の下で大きく曲がり込んで右手の谷に流れ下っている。滝見橋に近づくと、流れを変えた水が激しく岸を洗い瀬音は夜の谷に響いていた。

 周平はこの音に鞭打たれたように橋の手前で走り出した。昨年は、このあたりで12時となり、車に乗せられてしまったのだ。橋を渡って進むと前方は登り坂となり、道は左にカーブしている。この坂道の中腹の、白砂川に臨む高台に、第19ポイントの滝見ドライブインがあった。周平は息をぜえぜえさせながらドライブインの庭に走り込んだ。テントには数人の父母が待機している。

「周平君、急ぎなさい。急げばまだ間に合います」

テントで記録をとっている父母の一人が大きな声で言った。周平は頷いて再び暗い坂道へ飛び出して行った。この時、時刻は午後11時30分を過ぎようとしていた。花敷温泉まではまだ2,17キロメートルある。

 周平は走った。足の痛みは消えていた。滝見ドライブインから先は、大きくカーブした坂道が続き、頭上を樹木で覆われた暗い道には周平の他に誰もいなかった。暗い夜道に一人でいることが今は少しも恐くない。花敷に近づいているということもあったが、今まで味わったことのない緊張感が周平の心を満たしつつあった。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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