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2009年3月 8日 (日)

遙かなる白根(60)序章 100キロメートル強歩序曲

  長野原との境をなす峠の切り通しからは道はだらだらとした下り坂となり、しばらく進むと白砂川の瀬音がざあざあとはっきり聞こえた。六合村に入って初めて聞く白砂川の音。それは懐かしい故郷の音であり、周平を勇気づける音であった。この音は花敷温泉まで続いている。そう思うとゴールがぐっと近づいたように思えた。出立大橋を渡り白砂川の右岸に出るとなだらかな坂道が続く。黒い塊のようなカーブをまわると、前方に第17ポイントの青年婦人会館の明かりが目に入った。

六合村大字日陰の青年婦人会館は国道沿いにぽつんと立つ村の小さな集会所である。周平はここに午後9時35分に到着した。この時点で100キロメートル強歩参加者134名中、ワープまたはリタイアした者は合計54名にのぼっていた。この強歩で「完歩」と認められるためには、まず、第20ポイントである花敷温泉の花敷ベーカリーに午後12時までに着かなければならない。この青年婦人会館から花敷温泉までは、また約10キロある。ここでゆっくり休んでいる余裕はなかった。周平は、痛い足を揉んだり叩いたり、テーピングしたりといった応急の手当てを終えて、再び白砂川に沿った国道292号を辿り始めた。花園大橋を渡り六合村役場を過ぎ、単調な登りの道はどこまでも続く。

周平は腕時計をチラと見た。12時までに、あと2時間と少し。去年の悔しかった情景が蘇る。花敷温泉まであと僅かの所で12時になって車に乗せられてしまったのだ。今年はそのようなことがないように、歩く速度を上げて余裕をもって花敷に着こうと計画していたのに、また時間がたりなくなりそうだ。周平は、総合課の2、3の仲間と歩いていたが、仲間を追い越して先頭に出た。心が逸る。足が痛いなどと言っていられないと思った。

青年婦人会館から4,18キロの所に第18ポイントのJR六合山荘があった。ここは旅荘や売店もあるかなり広い一角であり、テントが張られ学校のバスも出入りする100キロコース上の重要拠点であった。スタート地点からここまで約85キロ。この間多くの子ども達が力尽きて戦列を離れた。歩き続けている者もほとんどは疲れ切っている。テントの側では焚き火を囲む子どもたちのさまざまな表情があった。虚ろな目で黙って火を見つめている顔。また、これから歩くコースを頭で辿っているのか、仲間が出てゆく方向へさっきからじっと視線を投げている顔。それぞれの顔にはそれぞれの苦闘の姿が刻まれている。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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