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2009年1月11日 (日)

遙かなる白根(43)序章 100キロメートル強歩序曲

「お母さんが待っているポイントは、ずっと先の夜のポイントがいい」

 こう主張する周平の言い分はもっともなことと思われたので、今年は、母親は最後の第21ポイントの長平公民館で待機することにしたのである。

「母が待つポイントまでは元気よく、あとは迎えの車を待つ子ら」と、誰かが「白樺」に投稿していたことがうなづける。

「周平君、頑張ってね」

 周平は、背後から聞こえる当番の父母たちの声に励まされながら、今夜はどうしてもお母さんの待つ長平公民館まで頑張るのだと、自分に言い聞かせるのであった。

第1ポイントを様々な子ども達が通り過ぎてゆく。先輩と後輩の関係と思われる二人組が足早に進んでいた。先へ行くひょろっと背の高い少年が、身体を曲げて後ろの小柄な少年に視線を向けた。後ろの少年はそれを受け止めて、肯くようにして足を速める。今年こそ俺が面倒を見て、お前を完歩させてやると、のっぽの背中が語っているようだ。この二人組に前後して、太ったややがにまたの男の子が下を向いて黙々と歩いてゆく。この子ども達に少し間隔を置いて、茶髪の可愛い女の子がスタスタとテントに近づいてきた。父親らしい男が待っていたように2、3歩進み出て、手を振って迎えいれようとした。女の子は男と視線が合うとプイと顔をそむけ、向きを変えてテントの前を通り過ぎてゆく。親子の間にどんな事情があるのか。テントにいる他の父母たちは一瞬驚いた様子であるが、男を気遣うかのように、後続の子らに関心を移して声援を送っている。

周平について言えるような様々なドラマを、子どもたちと父母たちは引きずっている。白根開善学校の子と父母は、既に長いこと苦しい人生の100キロ強歩を歩いているのだ。周平たちの姿は前方のカーブを過ぎてやがて見えなくなった。

 すっかり夜が明け、東の山際を朝日が赤く染め始めた。白砂川を隔てた対岸の段丘に所々、人家の集まりが見える。そこでも朝の営みが始まっていた。人家の間からゆっくりと立ち上がる白い煙が見え、犬の声がかすかに伝わってくる。白砂川の流れは渓谷の遥か下を流れていて、今はその瀬音も聞こえない。子どもたちは黙々と歩き続けている。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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