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2009年1月 4日 (日)

遙かなる白根(41)序章 100キロメートル強歩序曲

強歩はスタートした

 平成8年10月12日午前4時、小雨のパラつく中、周平にとって2回目の100キロメートル強歩がスタートした。この年の強歩参加者は、総勢134名である。天気予報では、日中、雨は止むと言っていたので、雨具を身に付けてはいるが、子どもたちに中止の不安はほとんどなかった。

 あたりは濃い闇に包まれ、学校を囲む森も山もまだ深く眠っていた。ザクザクと霜を踏む子どもたちの足音にもこれから100キロを歩くのだという決意が感じられる。

 周平は、父親と練った作戦に従って、今回はスタート時からやや速度をあげていた。早朝のまだ体力がいっぱいある内に距離と時間を稼いで、午後の苦しい時に休憩の時間を取るという作戦である。昼の休憩は浅間高原のあのあたりかと周平はスピードをあげながらコースの先を想像した。

林の中の坂道を一気に下って小倉の広場にかかる。帰りのコースでは学校への玄関口となって、焚き火とライトと人々の動きや声で緊迫感が漂うこの広場も、今は音もなく黒々と広がっている。ここから沢を越えてしばらくゆくと長平公民館である。今は人影もないが、帰りのコースでは最後の第21ポイントになるところだ。

 今年は、ここがお母さんの受け持ちだ。お姉ちゃんも一緒に待っていてくれると言っていた。ここまで頑張れるだろうか。周平の頭にチラと今夜の苦しい場面がよぎる。

 急な坂道を長笹沢川の流れの所まで下る。黒い谷間に流れの音が静かにこだましている。坂道を下りきった所に尻焼温泉があり、その先1キロ足らずの所に花敷温泉があった。花敷温泉は、子どもたちが週に一度、外出が許されている所であり、ここまでは歩き慣れた道であった。子どもたちの足取りもまだ軽い。長笹沢川の流れを呑み込んで一際高くなった白砂川の瀬音に包まれるようにして幾棟かの建物があった。周平は花敷ベーカリーの前を通りながら、ここで繰り広げられるであろう夜の光景を想像した。ここは帰りの第20ポイントで、夜は明かりがいっぱいで賑やかな筈だ。東京のテレビ局も来るとか聞いている。夜の12時迄にここに着いて、自分の名前を記録することが完歩の条件なのだ。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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