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2009年1月 2日 (金)

遙かなる白根(40)序章 100キロメートル強歩序曲

平成7年10月14日未明、白根開善学校はまだ暗い闇に包まれ、上空にはきれいな星が輝いていた。校庭にいる子どもたちの吐く息が、電燈の下で白く光って流れる。午前4時スタートと共に、子どもたちの黒いかたまりははじけるように展開し、先頭は暗い林の中に勢いよく流れ込んでゆく。それぞれが手に持つ懐中電灯が樹間にチカチカ揺れて、点滅する光の列の先は弧を描くように、早くも曲がりくねった道の、はるか下の方を進んでいる。小倉の広場までの急坂の道を子ども達はかなりのスピードで進んでいた。暗い中、無言の集団の足音だけが雑木林に響く。周平の後ろにいた者が次々に追い越してゆく。小倉を過ぎ長平公民館あたりまで来ると、周平のまわりはまばらになっていた。    前方に懐中電灯の光が進んでいる。皆すごい速さで進んでいる。そう思うと周平は取り残されていくような不安を覚えた。100キロとはどの位の距離なのか。コースについては良く説明を受けたし、実際に学校の車で下見もした。しかし、実際に歩き出してみると車で走った時とは全く感じが違う。まだ歩き出したばかりなのに周平は不安であった。不安に追い立てられるように周平は速度を上げた。尻焼を過ぎやがて花敷温泉に着く。今夜12時までにここに着かなければならない。尻焼の谷から流れ下る水が花敷で白砂川に合流しその瀬音が谷間の静けさを破って響いている。瀬音にせきたてられるように、周平は小走りに花敷を通り過ぎた。

花敷温泉から2.17キロの所に滝見ドライブインがある。行きは通り過ぎて

ゆく所であるが帰りのコースでは第19ポイントとして子ども達にとって重要な関門である。花敷を目の前にしながら精根使い果たして、あるいは午後12時というタイムリミットにぶつかり、このあたりでギブアップする者も多いのである。

 実は周平もその一人であった。初挑戦の100キロ強歩で周平はよく頑張った。道中、足が痛くなり何度かもう歩けないと思いながらも歯を食いしばって頑張った。しかし、ついに、この滝見ドライブインの近くで午後12を迎えてしまったのだ。スタートから約88キロであった。巡回して来たスクールバスの中で周平は涙を流した。お父さんに完歩すると約束したのに果たせなかったことが悔しかった。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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