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2008年12月15日 (月)

終身犯・郷隼人の「LONESOME隼人」を読む。

◇久しぶりに郷隼人の次の短歌を朝日新聞の歌壇に見つけた(14日朝日)。

☆ハロウィーンの夜(よ)に独房の

格子越しキャンディーをねだるおかまの囚友(とも)は

アメリカの刑務所から投稿されたものだ。次の歌は、過去に、私の手帳に書き止めたものだ。

☆老い母が独力で書きし封筒の歪んだ英字に感極まりぬ

☆口笛でクリスマス・キャロルを奏ずれば更に淋しき聖夜の獄舎

郷隼人は、鹿児島県出身の人である。アメリカで殺人罪を犯し終身刑で服役中ということだけは知っていた。幻冬舎から「LONESOME隼人」が出版されている事を知り、図書館から借りて読んだ。以下はその中からの引用である。

 「老い母が」の歌について郷隼人は次のようにつづる。「服役生活の最初の十年の間、母は一度も手紙を書いてくれなかった。あまりのショックと失望、落胆のために書くことが出来なかった」、ある日受けとった母からの封筒には「ミミズが這(は)ったあとのような英字で宛名と住所が書かれていた」、「一度も英字などを書いたことがなかったであろう年老いた母がいじらしく、英字を見つめながら涙があふれてくるのを禁じえなかった」

 この書物には母への思いを詠ったものがいくつもある。

☆十年の歳月を経て初めての母の便りに胸がつまりぬ

☆母さんに「直ぐ帰るから待ってて」と告げて渡米し、二十七年も経ちぬ

☆獄に読む老母(はは)の文こそ哀しけれ父の介護に疲れ果てしと

一つ一つの歌に説明はいらない。過酷な体験がストレートに伝わってくる。

 最初は最も警備が厳重な監獄で毎日のように食堂で刺殺事件が起きたという。次の歌は獄内の残酷さを十分過ぎるほどに伝えている。

☆囚人の撲殺されし午後に受くる全裸検査の屈辱感よ

☆血塗(まみ)れの囚徒を担架に乗せ走る静寂(しじま)の中のガードの鍵の音

☆異常なる静けさの中看守らの笑う声する刺殺事件の夜

更に次のような、欲望に苦しむ歌もある。

☆煩(わずら)わす「性」への煩悩絶ち難し収監十五年目いまなお

☆蟲惑(こわく)する女体の如き雛罌粟(ひなげし)の

蕾(つぼみ)に見とるる刑庭の午後

☆人間の欲望の多きを改めて思い知らさるる服役期間

長い刑務所の生活は耐えがたくそして、望郷の念は狂おしいものだろう。次の三首は望郷の叫びである。

☆もし海を眺めることができたなら祖国に向いてなんと叫ぼう

☆年ごとにその希望(のぞみ)すら否定され二度と逢えぬか桜島山  

郷隼人の人間性を支えられたものは短歌であった。

☆人間(ヒューマニティー)を失いがちな獄中に磁針の如き短歌の役目

郷隼人にはアメリカで生れた一人娘がいるという。一度も会ったことはない。どんな乙女に成長したか、ときおり、無性に会いたくてたまらないことがあるという。しかし彼女のためにはこのまま会わないほうがいいのだと思う、と語っている。   

☆十三年会ったことなき我が娘(こ)の幸福(しあわせ)祈る獄中チャペルに

これは1998年6月の歌である。終身刑にも仮釈放の制度があるらしい。郷隼人がどんな罪を犯したかは知らないが、老いた父母に会わせてやりたい気がする。イチローによく似た男だという。(読者に感謝)

★土・日・祝日は、中村のりお著「遙かなる白根」を連載しています。

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