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2008年12月23日 (火)

遙かなる白根(37)序章 100キロメートル強歩序曲

 父母たちは、前日の午後9時頃までに、それぞれの宿に着いて明朝の仕事に備えていた。花敷温泉や尻焼温泉の旅館、小倉の民宿、なかには、草津に宿をとる者もあった。子どもたちのスタートは午前3時なので、スタート地点に近いポイントで待機する父母は午前2時には起きねばならない。小倉に宿をとったある父母は、午前2時に起きて外に出て呆然となった。雨足が強まっているのだ。時折強い風が吹いて森がざわめき、横なぐりの雨が激しく降っていた。こんな雨の中で強歩をやるのだろうか。不安にかられながら、小倉の広場から車に乗って学校への坂道を進もうとすると、行く手の森の中から突然一台の車のヘッドライトが現れた。車の上には、「強歩実施中」の文字が闇の中に明るく浮き上がっている。「もう上がらないで下さい。子どもたちがすぐにおりて来ますから」車の窓を少し開けて、先生が言った。間もなく前方の森の暗がりから懐中電燈の輪がいくつか揺れ動いて、ザワザワと足音が近づいてきた。ヤッケのフードを頭に深くかぶった子ども達が次々と現れる。中には頭を雨にさらしてずぶ濡れの子どももいる。10月の半ばで普段はかなり寒いのに、この日はやけに温かい。頭上の木々が激しく動いて枝を鳴らしている。ドングリの実がパラパラと子どもたちの頭に落ちる。時々、「ゴー」という音が暗い一方の谷底から聞こえる。近くにある魔の沢・ガラン沢を強い風が吹き上げているのだ。台風に包まれた山の気配は、子どもたちの心を刺激し駆り立てているようであった。子どもたちは例年よりも早いペースでポイントを過ぎてゆく。雨はまだ降り続くのだろうか、このまま強歩は続けられるのであろうか、ポイントで待機する父母は皆心配であった。午前6時32分、強歩中止の報が伝えられた。本吉校長は迷ったあげく遂に中止の決断を下したのだ。明るくなるまでには雨が止むだろうと予想をしていたが、集ってくる情報を前に中止はやむを得ないと思われた。暮坂峠の風は、夜明けにかけて非常に強くなっていた。ちょうどこの時間に、この峠にかかる者が多いのだ。危険は避けねばならない。また、霧のため、分岐点の道を間違える子どもも出た。強い雨の中、雨に対する準備を十分にしていない子も多かった。 ☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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