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2008年12月13日 (土)

遙かなる白根(33)序章 100キロメートル強歩序曲

校内で身なりや服装をきちんとすることは大切なことであるが、そのことが個性の発揮を抑えこんだり、様々な人格の存在を認めることの妨げになってはならない。白根開善学校のような自由を認めることは、一般の学校では、未だ無理な面もあるだろう。とにかく、白根開善学校に関する限り、子どもたちの身なり、服装の自由な様子はこの学校のふところの深さを物語るように感じられる。

このことはまた、周平のような子どもも、一つの個性として存在することが許されることを示しているのだ。こういう子どもたち全体が動き回る姿と彼らのつくり出す雰囲気が、周平にも何となく分かるのであった。その実態は同室の者との寝起き、夜の黙想、大食堂での共同でする食事等々のふれ合いの中で、一つ一つ確かめられていった。

周平が入った建物は萌芽寮といい、原田瞬君と渡辺裕介君など4月に入学したばかりの新一年生がいた。原田君は神奈川県、渡辺君は九州熊本の出身であった。同室の者が白根開善学校に入学して間もない人たちであったことは、周平も含めて全体の間で仲間意識を育てるには好都合であった。行動を共にするうちに、周平の心も次第にほぐれていった。周平とすれば、同室の者ばかりでなく先輩たちまでが、自分を差別しないで平等に見てくれるということが、最初は驚きであった。

同室の者がどこかから情報を仕入れてきて、夜、ぼそぼそと話し出した。

「ぱしりというのがあるんだって。使いはしりをさせられることらしい。先輩が、夜、花敷とか草津まで、タバコとか何かを買ってこいと言うんだって。前に、体入した子がいてぱしりをさせられて、夜中に、2~3人で花敷まで行かされたんだって。その子は、とうとう白根に入学しなかったそうだよ」

体入とは体験入学のことである。周平は、聞いていて、あの親切そうなお兄さんが、そんなことをするのかと信じられない思いであった。そして、目を閉じて花敷温泉までの道を想像した。花敷温泉までは片道一時間はかかる山道である。ここを深夜歩くなんて考えただけでも恐ろしい、周平はそう思いながら、先輩たちのいる寮の方角を伺った。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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