« 「高齢者犯罪の増加」「今月のふるさと塾は」 | トップページ | 遙かなる白根(25)序章 100キロメートル強歩序曲 »

2008年11月15日 (土)

遙かなる白根(24)序章 100キロメートル強歩序曲

ここの信号を左折して進路を北に取る。この曲がり角の近くに、通称青木店(だな)と昔から言われている店がある。今は群馬銀行につとめている青木英雄という私の小学校の頃の同級生の生家だ。

 そういえば、小学生の頃、私は、学校の帰りに、回り道してこのあたりを通ることがよくあった。私が住んでいたのは、あのあたりか。遥か北、私が目をやる方向にいくつかの人家の光が見える。赤城神社は、その光より、まだまだ遠くにあった。

 もうすぐ、南面道路の梅の木沼のあたりにつきあたる頃と思われる所まできた。つま先が痛み始めた。農家の屋敷を包んだ松の木立が轟轟と音をたてている。風が一段と強まり、頬につめたいものが当りはじめた。

 頬に手をあてると風に舞う雪・風花である。このあたりの人は、この風花のことを「ふっこし」という。ふっこしは次第に強くなった。その時ふと周平のことが気になって振り向いた。身をかがめ闇をすかすようにして目を凝らすが周平の姿はない。更に耳を澄ますが、周平の足音はなく、松の木を動かす風の音ばかりである。

 昔のことを思い出して歩いているうちに、周平との距離が広がったらしい。

「周平―、周平―」

 私の声が風に千切れて飛んでゆく。足が痛くて遅れてしまったのか。横道にそれて迷っているのか。ふっこしは、激しさを増して吹雪のようになってきた。私は不安になって、逆の方向に走った。

「周平―、周平―」

なおも大きな声で叫び、叫びながら走った。すると、風の音に混じって何か聞こえる。

「お父さーん、お父さーん」

呼んでいる。周平の声であった。やがて、声と共に小さな足音が近づいてきた。

「周平―」

「お父さーん」

周平は闇の中から突然目の前に現われた。泣きそうなのを、鼻をすすって、こらえている。

「ああよかった。お父さんが見えなくなっちゃって、すごい風の音と雪だもの、僕、遭難かと思った。こんなの初めてだ」

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

|

« 「高齢者犯罪の増加」「今月のふるさと塾は」 | トップページ | 遙かなる白根(25)序章 100キロメートル強歩序曲 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 遙かなる白根(24)序章 100キロメートル強歩序曲:

« 「高齢者犯罪の増加」「今月のふるさと塾は」 | トップページ | 遙かなる白根(25)序章 100キロメートル強歩序曲 »