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2008年11月 8日 (土)

遙かなる白根(22)序章 100キロメートル強歩序曲

Photo 私の家のすぐ北を走る県道・原之郷四ツ塚線が芳賀の小坂子(こざかし)を経て宮城村へとのびている。車で毎日のように走る道なので、私は道筋の様子を詳細に頭に描くことが出来る。私の頭にある道筋の絵は、何十回、何百回となく、車を走らせるたびに描いたもので完璧だと思っていた。ところが歩いてみると、道端の石や木や建物の姿、そして、道の曲がり方や道路の起伏に至るまで、次々と現れる道路の様子が車から見たのとは大いに違うことに気付く。

 私は、歩くことに新鮮な驚きを感じながら、うなりをあげて吹きつける赤城おろしの中に、身体を倒して分け入るようにして一歩一歩と足を進めた。

「お父さん、お父さん」

周平の叫ぶ声が風の音にまじって後ろからきこえた。先程までフードを目深にかぶり、手袋をして、身を丸めるようにして歩いていた周平が、今は、フードをとり手袋もはずしている。近づくと口元から白い息が闇に滲(にじ)むように流れるのが見える。はぁ、はぁ、と息急(いきせ)き切っている。

「お前、同じ速さで歩かなければ駄目だよ。そんなに走ると疲れるんだ。最後まで歩けなくなるよ」

先程からの周平の歩き振りを見ていると、ぐいぐいと私を追い越して行ったかと思うといつの間にか、私の遥か後ろになっている。それを何回となく繰り返しているのだ。

「うん、わかったよ。お父さん、もう半分位きたの」

「何を言ってるんだ。まだ、この十倍位あるんだ」

私は、小坂子の坂をほぼ登りつめたあたりから、前橋市街のきらめく灯の海を振り返って言った。そこには、大晦日を過ごす前橋市の夜の街が静かにキラキラと輝いて広がっていた。

「へぇー、お父さん、赤城神社って遠いんだね」

「だから最後まで頑張って歩き通せば偉いんだ。学校のテストで良い成績をとるのと同じだよ。いや、もっとすごいことかも知れない。周平が歩き通せたら先生にも報告して誉めてもらおう」

「えっ、学校の先生が僕を誉めるの。先生が誉めるのは勉強だよ。僕、学校で誉められたことないもん」

 周平は歩くのをやめて私の方を向いて言った。私も立ち止まって周平を見た。

「お前、今、お父さんと歩いているのは、立派な勉強なんだよ。学校の算数や国語よりもっと大切な勉強をしているんだよ」

☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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